日本の大手電機メーカーはなぜ安い扇風機を作れないのか


カテゴリー: 写真日記 | 投稿日: | 投稿者:

扇風機を買った。
去年使っていた扇風機は、支柱の部分がぐらつき始めていて、使用中に折れてプロペラが飛び出して来て血まみれ、とかになったら嫌だなあと思って、処分した。押し入れの中にはもう一台、10年くらい前の製品と思われる扇風機あったが、こちらのヤヴァさも相当なもので、スイッチが故障してセロテープで修理してあったり、動かして見るとぷぅんとホコリのニオイが漂って来たり、何しろこれもこれで相当ヤヴァそうな感じだったので処分することにした。

で、今日、ノジマ湯河原店に行って扇風機を買いに行った。
売り場には東芝、三菱、パナソニックといったメーカーが様々な扇風機をラインナップしているのだが、いずれも6980円とか19800円とか、ちょっとまちなさいよ、今時扇風機ごときにそんな金額払う訳ないじゃないですか、という製品ばかりだった。
いや、多分各メーカーはこう言うだろう、これだけの機能でこの価格は破格なんですよ、と。

一方、安い扇風機もあって、YUASAというメーカーで、Made in Chinaの扇風機が1980円だった。この扇風機の良さは価格だけではなかった。スイッチはシートキータイプではなく、ぽちっと押すタイプの、ある意味クラシックな押しボタン。首振りの機能と3段階の風量調節と3時間までのタイマーが付いていた。試しにスイッチを入れていると、充分涼しい風が来た。この扇風機は見本品1台の他、箱が山積みになっていた。迷わずこの扇風機をレジに持って行った。小型で軽いので、自転車の荷台につけて持ち帰れた。

YUASAというのは多分日本のメーカーだろうけれど、正直言って、このメーカーが一番「まともなものを作っている」と感じた。もしかしたら中国のハイアールあたりのOEMかもしれない。

大手メーカーの製品は、扇風機にリモコンがついていたり、風の強さが多段階に変えられたり、自然の風に似せたゆらぎのある風が起こせたり、しまいにはナントカイオン機能付きとか、だから扇風機ごときになんでそんな機能が必要なのよ、と呆れる一方で、コストダウンのために、スイッチは使いづらいシートキータイプだったりするのだ。
もう、あんたがた一体何を考えてるのかと。
こういった「無駄に高機能な扇風機」は、社内で会議に会議を重ね、一流大卒の優秀な頭脳をかき集めて、練りに練りに練り練りすぎたあげく、発売してしまうんだろうなあ、と想像してみる。その裏には、扇風機の売り上げ、というか、会社の売り上げよりも、開発責任者のメンツとか、大手メーカーとして「安物は出せない」「高くても売れるだろう」といった発想とか、そういう社内的な事情や発想で、頑張って頑張って頑張って作ったんだろうなあと思う。

その努力を、どうして「安い扇風機を作る」ことに振り向けられないのだろう?と、単純に思う。おそらく中国の人件費が上がってくれば、中国メーカーとて価格が武器にならなくなってくる。一方、日本では正社員の採用抑制とか派遣労働の浸透とか、人件費が随分安くなっている。「会社の保養所」みたいな福利厚生ももう流行らない。それも間接的な人件費の一種だろう。

日本の会社は「徹底的に価格を下げる努力が出来ない」のか?というと、必ずしもそうではない。JR東日本がそうで、平成の始め頃に作った209系という通勤電車は、従来の電車に比べて「重量半分・価格半分・寿命半分」というコンセプトで設計され、実際には重量も価格も寿命も半分にまではならなかったものの、大幅な軽量化に成功し、価格も安く抑えた電車の開発に成功した。209系の設計思想の多くはその後、通勤電車だけでなく東海道線等の郊外向けの電車の設計にも引き継がれ、やがて私鉄各社にも共通の設計思想を持つ車両を普及させるなど、大きな成果を上げた。この209系というのは、鉄道の好きな人たちからは必ずしも好まれていなかったようだけれど、当時京浜東北線を通勤に使っていた私は、新しいな、これはいいな、と思った。

訳の分からない多機能(の扇風機)を開発する努力が出来るなら、その努力の方向性を修正して、中国製の扇風機より安い国産扇風機とか開発してみたらどうなんだ、と思う。必要最小限にして小型軽量のモーターを使うとか、なるべく一体成形のプラスティックを使って部品点数を減らすとか、あるいは素材のプラスティックについて、安くて軽くて強度のあるものを開発するとか、あと、風量調節なんかも「多段階」どころか「3段階」でもなく「2段階」くらいに絞るとか、製造工場も人件費の安い地方で作るとか、工夫の余地はあるのではないかと思う。

世界は経済メチャクチャだというのはある意味事実であろうかと思うが、日本経済もダメだ、とあきらめる前に、「本当に必要とされるモノやサービス」をあらためて洗い直し、見極めた上で、持ち前の勤勉さと努力を惜しまない性質を注ぎ込めば、日本の会社も決してまだダメなことはないんじゃないかと思う。

と経済素人の私が言っても、説得力ゼロだけれど。

1980円の扇風機

1980円の扇風機